MIYAGI ARCHAEOLOGY INFORMATION Vol.27 2002.7.20



仙台市が艮櫓(うしとらやぐら)建設を断念―仙台城跡国史跡指定で方針転換―

 仙台市が仙台城跡に建設を計画していた艮櫓について、藤井黎市長は5月20日記者会見し、建設計画を全面的に中止する方針を表明した。文化庁が市有地部分の先行的な国史跡指定を内定したことで、仙台市は古い石垣の破壊など史跡を大きく改変する恐れがあるとされる艮櫓建設を断念せざるを得なくなった。仙台市は今後、代替案として大手門の整備を検討するとしている。
 文化庁は5月17日、藤井市長に対し「仙台城跡の市有地部分については先行的に(史跡)指定が可能」との方針を伝えた上で、「(艮櫓建設は)史跡改変が避けられず、国史跡指定を前提とすれば(建設は)認められない」との考えを示した。このため、藤井市長は「国の史跡指定の道が開かれ、(艮櫓復元計画の)大前提が変わった。艮櫓整備事業は中止する」と明言した。
 仙台市は2000年11月、市の新しいシンボルづくりを求める仙台商工会議所など経済界の意向を受け、現存石垣(3期)の解体修復事業と並行させる形で艮櫓を建設する計画を決めた。史実との関係から艮櫓建設の是非や位置をめぐって議論が分かれている中での決定だった。総事業費は20数億円で、今年夏ごろ事前調査などに着手し、2004年度末の完成を目指していた。
艮櫓をめぐる議論の発端は、石垣の解体修復に伴う発掘調査の結果だった。これまでに、絵図などから艮櫓は2期石垣までしか作られなかったことが知られており、計画位置は築城当初から石垣の位置が変わってないことが前提だったが、現存石垣北東角の発掘調査で艮櫓の遺構は確認されなかったのである。さらに現存石垣の内側から1期・2期石垣が発見されたため、計画通りに艮櫓が建設されれば基礎工事によってこれらの石垣遺構を破壊してしまうことも明らかとなった。
このため、仙台の歴史学関係者らが度々シンポジウムなどを開き、「現存石垣上の内側に2期石垣の上端を復元し、その上に艮櫓を復元する」という代替案を提示するなどし、史実に基づいた復元を求めていた。
 仙台市は仙台城跡の史跡指定も目指していたが、これまでの史跡指定は「全域指定」が原則だった。仙台市のほか護国神社、東北大学などに地権者がまたがる仙台城跡は短期間での全域指定が困難とみられ、仙台市は艮櫓の復元事業を優先させてきた。今回、文化庁が「部分指定」を認める方針を打ち出したため、史跡指定が可能となった。
 史跡指定を受ける範囲は、約103万平方mに及ぶ仙台城跡のうち、本丸東側の市有地部分(約4万平方m)となる見込み。仙台市は来年初めに史跡指定を申請するとしている。文化庁はこれを受けて来年度の早い時期に正式指定する見通し。