発掘調査の目的

 今回の座散乱木遺跡発掘調査の第1の目的は、捏造疑惑の検証にあることはいうまでもない。学史的にも、わが国における前・中期旧石器時代研究の極めて重要なひとつの出発点であり、座散乱木遺跡出土資料は、その後の前・中期旧石器時代研究にとって、当該期の基準資料としても位置付けられていたものでもあることから、その真偽を確実に科学的に検討する必要があることは贅言を要しない。
特別委員会第1作業部会が既に実施した13層及び15層出土石器の検証からは、黒色土の付着、新しい傷痕、褐鉄の線状痕、加熱処理の痕跡、押圧剥離の存在等が多数の資料について確認されることから、過去の座散乱木遺跡の当該期の出土資料は、全体として学術資料として使うことには問題がある、との判断が示されている。
既発掘区及びその周囲の発掘は、北海道総進不動坂、尾花沢市袖原3、宮城県上高森、福島県一斗内松葉山、埼玉県小鹿坂、同長尾根等での検証発掘調査の方法に準拠して、1)既発掘区最終面に残された過去の発掘調査痕跡の精査を行い、さらに、2)既発見の遺物の広がりの延長が確実に検出できるか否かを確認する必要がある。同時に、3)座散乱木遺跡発掘当初より一部で指摘されていた事柄でもある、遺物包含層の地質学的な性質、地形形成史および土壌学的な見地からの、そこにおける生活址としての遺跡として、その包含層が評価できるのか否かといった、遺跡形成論的な調査が重要な課題となる。
また、検証的な意味では、4)利用石材の理化学的な分析も重要な課題である。前・中期旧石器とされている既発見資料の一部の石材については、その石材の形成年代が出土層準の年代より若い可能性が指摘されている。
また、5)本遺跡が国指定史跡であることから、学術的にも、行政的にも、既発掘区以外の部分についても学術的な調査のメスを入れ、この遺跡の真の内容や性格をつかむことが求められる。