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平成13年度宮城県考古学会総会
報告・討論 「旧石器発掘ねつ造問題をめぐって」 -報告-




 宮城県考古学会の会員だった藤村新一東北旧石器文化研究所前副理事長による旧石器発掘捏造問題で、宮城県考古学会は5月12日、仙台市青葉区の東北学院大学で総会を開き、藤村氏が調査に関係した遺跡や石器の再検証に取り組む「旧石器発掘ねつ造問題特別委員会」を設置した。
 特別委は準備会代表だった辻秀人東北学院大学教授のほか、柳田俊雄東北大学総合学術博物館教授、東北歴史博物館や宮城県教委の職員ら11人で構成し、具体的な活動方針として(1)事実関係の確認作業(2)検証作業の方法論の検討(3)検証のための再発掘調査の検討などを挙げた。日本考古学協会が5月19日の総会で設置する「前・中期旧石器問題調査研究特別委員会」など関係団体と連携し、事実解明にあたる。
 総会には会員約100人が出席。特別委設置のための、会則改正を全会一致で承認した。特別委は5月下旬にも初会合を開き、今後の活動日程を決める。
 会場は昨年12月に開かれた臨時総会の逼迫した雰囲気とは違い、緊張感のある中でも討論では前向きと言う言葉が幾度となく使われた。以下、報告及び討論の主な内容である。


事件後の経緯と宮城県考古学会の対応
宮城県考古学会・高倉敏明幹事長

・事件後の経緯と県考古学会の対応の経過について(省略)。
・捏造を行った個人の責任のみでなく、共同で調査団を組織して発掘調査を行った調査員の責任は免れ得ない。
・東北旧石器文化研究所に対しては発掘調査報告書のすみやかな刊行を強く求めていく。



宮城県考古学会
旧石器発掘ねつ造問題特別委員会準備会報告・活動方針

宮城県考古学会特別委準備会・辻秀人代表

・事実関係の確認作業(過去の調査に関して可能な限りの情報を収集・整理)の後に検証作業の方法論の検討(他遺跡での捏造を疑う根拠とされた仮説などについて事実に基づく積み重ねから検討)を行い、見通しをつけた上で検証のための発掘調査に踏み出すべきかどうかを検討する。
・日本考古学協会特別委・東北日本の旧石器文化を語る会など関連団体と協力できる点では積極的に協力していくが、宮城県考古学会としてのスタンスは維持していく。
・藤村氏採集の石器の取扱は家族より鎌田俊昭東北旧石器文化研究所理事長に一任されている。日本考古学協会の戸沢充則氏・矢島国雄氏・佐川正敏氏と辻秀人氏らで今後の取り扱いを協議、共同での検証実施まで一時的に凍結を約束。その後宮城県考古学会と日本考古学協会、東北日本の旧石器文化を語る会が合同で行った検討会(4月14・15日、於:東北歴史博物館)で100数点の石器を今後のより詳細な検討対象としてピックアップした。
・東北旧石器文化研究所に情報公開・報告書刊行要求を文書で送付した。
・この問題についての情報収集を継続していく。活動は公開を前提とし、連絡紙のほかにホームページ等での情報発信を検討中である。
・我々は、上高森遺跡を抱える地元の考古学会として、その発掘にかかわった関係者と無縁ではない。時間はかかるが、今後の再検証作業では、客観的事実を一つ一つ積み重ねていくことでなにが起きたのかを明らかにしていきたい。



日本考古学協会
前・中期旧石器問題調査研究特別委員会準備会の設置と活動報告

日本考古学協会前・中期旧石器問題調査研究特別委員会準備会・佐川正敏委員

・関係自治体や地域研究団体の行う検証作業に学術的支援・協力し、学術的公正さを堅持する立場から必要な助言を行う。
・埼玉県、福島県安達町、山形県尾花沢市が行う検証作業に委員を派遣している。
・第14回東北日本の旧石器文化を語る会の検討会(2000年12月23・24日、於:福島県立博物館)などで今まで意識してこなかった点についての指摘が多く出され、精神的には動揺したが、(他遺跡での捏造を疑う根拠とされた仮説が)明確な根拠・検証に基づかないまま言葉の上で一人歩きしている可能性がある。
・日本考古学協会特別委は当初5年で一定の結論を出す計画だったが、スピーディーな解決が必要との考え方から3年を目標とする。
・科学的メカニズムの解明についての分析方法は日本考古学協会総会(5月19日、於:駒澤大学)での特別委発足後に検討する。
・検証結果を踏まえて、世界的な視点で前・中期旧石器時代研究の現状を整理・統括しながら、日本列島の人類文化の初源に関する研究の進展に必要な方法論の確立、研究・調査体制の整備を進めることになるだろう。



東北日本の旧石器文化を語る会の活動
東北大学総合学術博物館・柳田俊雄教授

・事件後の第14回東北日本の旧石器文化を語る会のプログラム変更と進行状況等の経過(省略)。
・第14回東北日本の旧石器文化を語る会の検討会で研究者にさまざまな疑問点を提示してもらい、今後の検討の材料とすることができた。
・他遺跡の石器についてもガジリ痕、黒土や鉄分の付着、熱処理や押圧剥離技術の有無などの疑問点が提示されているが、一方で解釈的問題を含む点も多く、より具体的な検討が必要。



討論
(司会:会田容弘会員・柳沢和明会員)

・上高森遺跡の発掘調査報告書の刊行時期はいつ頃になるのか。(会員)
・取り組んではいるが手勢が少なく進まないのが現状と鎌田理事長より聞いている。(辻特別委準備会代表)
・県考古学会として検証のための発掘調査実施への考えは。(会員)
・実施の有無について準備会として明確な考えはない。実施するかどうかを含めて検討していきたい。(辻特別委準備会代表)
・かつての調査状況についての徹底的な把握が先決である。(藤沢会員)
・一斗内松葉山遺跡の調査状況についての報告(省略)。(柳田会員)
・県内で調査に携わった関係者の証言に対し、あたかも捏造擁護であるかのような捉え方をする状況があり、きちんとした根拠に基づかない批判に対しては、学会として毅然たる対応をすると言う姿勢を示すべき。(藤沢会員)
・匿名化したインターネット社会の批判に対しても学会としてきちんとした対応がなされるはず。(会田会員)
・宮城県は旧石器研究をリードしてきた。ほっかむりはできない状況だ。(会員)
・遺跡は地域にあるもの。地域に根ざした学会が発掘を実施するのが望ましい。(高橋会員)
・上高森遺跡の事実報告もまだ刊行されていない上、捏造に使われた石器の現状も明らかでない。県考古学会としてはどこが発掘を実施するのが望ましいと考えるのかを明確にし、しかるべきところに働きかけた上での反応を踏まえて対応を考えるべき。(藤沢会員)
・報告書刊行要求など県考古学会としてできることをやった上で発掘実施の有無を考えたい。(高倉幹事長)
・上高森遺跡に関しては地権者との関係から秋には埋めなくてはならないと鎌田理事長より聞いている。(辻特別委準備会代表)
・報告書刊行の時期については東北旧石器文化研究所の能力的問題がある。(辻特別委準備会代表)
・一般社会、報道などのメディアと考古学のかかわりを考えていかなくてはならない。(大谷会員)
・旧石器発掘捏造問題に関する部会の開催などでコンスタントな情報交換の場の提供を。(大谷会員)
・前向きな意見を今後の活動に活かしていきたい。(会田会員)


2001.05.15 管理人