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仙台城本丸跡石垣修復工事の問題点


 Qは6月3日石垣修復工事現地見学会での公園課職員に対する管理人の質問、A1はこれに対する公園課職員の回答(要旨)、A2はこれに対して6月12日付けで仙台城の石垣を守る会の平川新氏よりいただいたコメントです。
 平川氏には、メーリングリストを介してE-mailでコメントをお寄せいただきました。お忙しい中、管理人の依頼に快くご協力いただき、この場を借りて御礼申し上げます。
 なお、現地見学会の様子については、管理人の参加報告をご覧ください。


Q.(管理人)盛土の復元にセメント系固化材を使用するとのことだが、版築を丁寧に行うことでフォローできないのか。
A1.(公園課職員)時間をかければ可能であろうが、石垣背面や地盤を長期間風雨に晒すことになり、工期の問題がある。使用するセメント系固化材は通常のコンクリートとは異なり、ツルハシで簡単に崩れる程度のものである。セメント系固化材を使用した盛土は不透水層となり、玉石による上下の排水施設が排水の役目を果たす。
A2.(平川新氏)「工期」を短縮するために、伝統工法である版築を省略し、代わりにセメント系固化材を使うということですよね。しかしそもそも、伝統工法を真に復元する工事計画をなぜ立てなかったのかということが最大の疑問です。平成10年3月の工事仕様書には「往事の工法を再現し、文化財としての価値を損なわないよう修復する」とありますよ。工期がないからということは正当化の理由になりません。
 また、「セメント系固化材を使用した盛土は不透水層となり、玉石による上下の排水施設が排水の役目を果たす」と公園課は説明していますが、この不透水層と上下の排水施設は、どう連接されているのでしょうか。標準断面図をみても、この点が読みとれません。伝統工法では版築した層を徐々に水が浸透して排水施設に流れこむような構造になっていました。しかし、不透水層というのは水を通さないわけですから、この連接がうまく構造化されていないと、その不透水層に、それこそ水がたまって「はらみ」の原因になるのではないかと心配です。




Q.裏込め石の復元にシート状のものを使用するとの情報があるが詳細は。
A1.耐震用補強ネットと言い、プラスチック系の材質の網状のものである。上層部の裏込め石の間に何層かにわたって(部分により異なる)平面的にネットを敷く。拘束力のない裏込め石を地震の際につなぎとめる役割を果たす。他の遺跡の調査例でムシロ状のものを敷き詰めている状況が確認されている。材質こそ違え用途は同様のものである。
A2.この補強ネットは裏込め層に敷かれるということですが「修復標準石垣断面図」をご覧ください。「耐震用補強ネット」が波線で8層に渡って描かれていますが、その線は裏込め石の部分よりも広く、盛り土部にも部分的に敷かれることになっています。これは問題ではないでしょうか。補強ネットは、プラスチックだということですので、ムシロとは違って永久に風化することはありません。とすると補強ネットを敷いた部分は強い「拘束力」をもって、沈下やズレを防ぐことになるのかもしれませんが、敷かれていない盛り土の部分には「拘束力」が働きません。であれば、敷いた部分と敷かない部分には、ズレが生じることになりませんか。同じ盛り土層で不均衡が生じるのではないかと心配です。その不均衡がどんな悪さをするのかまでは分かりませんが、現代工法によって部分的な補強をしても、それ自体がどのような結果を生み出すか分からないという点に怖さを感じます。強くしたから大丈夫、と本当にいえるのでしょうか。


仙台市建設局百年の杜推進部公園課2001
「仙台城石垣修復工事現地見学会資料」より

Q.旧材と新補材の強度の違いは。
A1.ほとんど違いがない。新補材は基準を満たしたものを輸入しており、旧材も使用に耐えるかどうか調査した上で採用している。
A2.石自体の強度に問題はないとしても、新補材は旧材よりも形状が大きく長いために、上からの荷重や背面からの土圧をより大きく受ける可能性が高いですね。それが全体構造にゆがみを生み出すのではないかという心配があります。そのゆがみは、どんな結末をもたらすのでしょうか。大いに心配です。



Q.石材破損の多かった谷地形の部分では新補材が一回り大きなものになっており石材間の隙間が小さくなっているが、木端石の役割をどのように考えているか。
A1.木端石は左右の石との隙間を埋めるものである。木端石の役割にも良い面と悪い面があり、地震の際に細かく砕けて緩衝材としての役割を果たす反面、隙間に徐々に沈みこんで石材を押し出し、今回のはらみの一因ともなった。
A2.「木端石は左右の石との隙間を埋めるものである」という公園課の説明は間違いです。あたかも木っ端石は石材の左右にのみあったかのような説明ですが、実際には石材の上下左右を包み込むように敷かれていたのであって、左右だけではありません。公園課が現在進めている工法が左右にしかおいてないだけのことです。伝統工法は、そんなにいい加減なものではありません。
 上からの地震等の荷重に対するクッションの役割という点では、上下の木っ端石こそ最重要です。その上下の木っ端石を省略しているのですから、地震等による振動はどうやって吸収することになっているのでしょうか。
 現在のやり方ですと平面状の石材が直に重なりあうことになりますので、それこそ上からの衝撃・重圧は石材にストレートにかかり、背後からの土圧も加わりますので、石割れや飛び出しの可能性がより高くなることも予測されます。公園課は新補材は大きいので飛び出さないという説明をよくしますが、これは力学的に確認されたことなのでしょうか。もしそうなら、データを出して頂く必要がありますね。
 また公園課は、「木端石の役割にも良い面と悪い面があり、地震の際に細かく砕けて緩衝材としての役割を果たす反面、隙間に徐々に沈みこんで石材を押し出し、今回のはらみの一因ともなった」と説明していますので、木っ端石は少しのほうがよいという考え方をしているようです。
 しかし、伝統工法の専門家である鈴木啓氏(旧調査検討委員会委員)は、「本当に一個一個の石材を木っ端石で包んだような形に作ってあるんです。これは非常に個性的な伝統技術で、ほかには見られない。」(平成12年8月2日検討委員会議事録)と述べて、木っ端石こそ真髄であることを認めておられます。地震などのときに木っ端石が動いたり、折れたりするからこそ、衝撃を吸収する柔軟性が確保されるわけです。
 公園課がやっているように直方体の新補石材を入れると、当然木っ端石は少なくなります。入れようにも入れられないということですね。それを正当化するために木っ端石を悪役にしたような説明がなされているのではありませんか。現在公園課行っている工法は、伝統工法の最大特徴と安全構造を完全に否定していますね。




Q.現在詰まれている新補材は左右側面のみ加工が施され、上面についてはほとんど加工されていないのはなぜか。
A1.作業の進行に伴い、隣り合う石材の形状に合わせてこれから手作業で加工を施していく。
A2.公園課が配布した「石垣断面詳細図」をご欄下さい。これは新補石材の図面ですが、石の下面は完全に平らで、まったく削り込みがなされていません。上面はこの図では削りこむような描き方をしていますが、情報開示してもらった平成12年4月の変更契約にある仕様書で確認しますと、上面はわずかに、「4.5〜9p」しか削らなくてよいことになっています。旧材はもっと大きく削りこんでいます。だから四角錐形になっているのです。
 公園課はこれから削ると言っていますが、すでに積んだ石を大きく削りこむことは作業上無理ですね。もし削るとしても、尻部を見せかけだけ、少しばかり削るということにならざる得ないでしょう。現場でよく見ると、削っているのは尻部のほんのわずかな部分だけであることがわかります。本気で削るのなら、据え付け前に削っているはずです。

仙台市建設局百年の杜推進部公園課2001
「仙台城石垣修復工事現地見学会資料」より

Q.石垣のはらみ出しは昭和に入ってからと聞いているが、おもな原因は把握しているのか。
A1.第一には石垣前面を走る生活道路の交通量増加による振動の影響が大きい。急カーブを曲がりきってアクセルを踏み込む位置がちょうど谷地形で地盤の弱い部分に当たっている。第二には本丸平場が建物の破却後に放置されたことにより、平場の水が直に石垣背面に浸透していったことが考えられる。第三には本丸平場の樹木の根が石材を押し出した状況が確認されている。
A2.道路の影響であれば、通行止めにしない限り、今後も影響を受け続けることになります。また平場の水が石垣背面に浸透していったとしていますが、階段状石列の背面の面暗渠など、独特の排水施設があったからこそ、今まで石垣がもったのではないでしょうか。前述したように、新工法ではコンクリート固化剤等を使うことによる不透水層が新たにできるのですから、ちゃんと排水できるのかどうか、新工法のほうが心配ですね。



Q.生活道路の振動による影響は修復後も存在し恒久的なものと考えられるが、何らかの対策はあるのか。青葉城周辺を迂回する生活道路の新設や既存道路の通行規制などの考えは。
A1.生活道路の新設については何年か前に計画があったと記憶しているが、当面は実現の見込みはない。重要な生活道路であり通行規制は困難。しかしながら石垣下の岩盤は非常に軟弱であり、その上に乗っている土砂も非常に滑りやすい状況にある。例えば石垣前面の斜面にH鋼を打ち込むなど、何らかの補強の必要性があり、現在具体的な方法について検討中である。
A2.八木山団地住民の生活道路になっていますから、これに代わる新しい交通体系を早く実現し、石垣横の道路は通行止めにするしかないと思います。
 石垣下の地盤は非常に軟弱なので前面にH鋼を打ち込むとのことですが、確かに前方へずれる対策にはなるかもしれません。しかし、下方への沈下の対策はどうなっているのでしょうね。




Q.現存石垣は300年以上持ちこたえてきたが、現在進められている工法で修復した場合、どれくらいの耐用年数を見込んでいるのか。
A1.500-600年を見込んでいる。出来るだけ将来の修復回数を少なくしていくことが文化財を守ることにもつながる。部分的に現代の工法を取り入れているが、その理念は当時のものを引き継いでいる。
A2.
500-600年の耐用年数とは立派なものですね。これは鹿島建設の保証期間ということなんでしょうね。ぜひ、その保証書を書いてもらいましょう。またこの数字は構造計算をしたうえでのことでしょうから、その根拠をぜひ出して頂きましょう。もしそのような根拠もなく、500年はもつと公言しているとしたら、どういうことになるのでしょうか。
 また、「部分的に現代の工法を取り入れているが、その理念は当時のものを引き継いでいる。」と述べています。しかし、これは納得しがたい説明ですね。
 伝統工法は、クッションの役割を果たす木っ端石、内部土留めのための階段状石列や、独特の排水施設、その他、いくつもの高度な技法を取り混ぜたものでした。木っ端石を悪役にしてその量を少なくする工法のどこが、伝統工法の「理念」を引き継いでいるのでしょうか。排水施設も、自然透水できないようなコンクリート固化剤を使うのですから、どこまで有効に機能するのか不安です。階段状石列は、ちゃんと復元するのでしょうね。
 最終回となった第9回検討委員会(平成12年8月)では、伝統工法の専門委員から、「これは明らかに現代工法でできあがっている」とか、「これは我々が言っておった伝統技術を無視した考え方に近いんだと思います」と、痛烈に批判の声があがっていました。それでも、伝統工法の「理念」を「引き継いでいる」というのでしょうか。伝統工法の最良の部分を根本的に否定・改変しておきながら、「伝統工法の理念」を継承しているなどとは、言って頂きたくないですね。


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