宮城考古学情報捏造事件関連情報>上高森遺跡問題等についての委員会見解

以下の記事は、日本考古学協会会報(141,2000.12.1発行)に掲載されたものです。
同協会ホームページには掲載されておらず、WEB上での公開を図るため、転載してご紹介しています。
同協会によるWEB上での公開が確認でき次第、そちらへのリンクという形に改めさせていただきます。



上高森遺跡問題等についての委員会見解



 日本考古学協会は、1948年に結成された我が国の考古学研究者の全国組織で、自主民主・平等・互恵・公開の原則に立って考古学の発展をはかることを目的として活動してきました。
 考古学は、遺跡の発掘調査によって確認された事実関係を基礎とする科学です。この度明らかとなった藤村新一会員による上高森遺跡、総進不動坂遺跡の調査における考古学的事実の捏造は、考古学の基礎を自ら破壊するもので、研究者としての倫理が厳しく問われる行為です。日本考古学協会は、このような行為を為す者を出し、しかも研究者相互の批判によってこれを防ぐことができず、わが国の考古学の信頼を大きく傷つけたことに対し、深くお詫び致します。大地に残された過去の人間活動の痕跡の調査を通じて、列島の歴史をより豊かに描き出す上で、考古学が果たしてきた役割は高く国民に評価されてきましたが、その一方で、新発見こそが重要であるかのような誤解や誤った風潮を生み出していた恐れはなかったかどうか、また新たな発見をめぐって、資料の公開と多様な意見の研究者による相互批判が不十分ではなかったのか、本協会としても厳しく反省する必要があると受け止めています。協会として研究者倫理の徹底についても検討に取り組みたいと考えます。
 日本考古学協会委員は、本日、考古学研究及び学界の社会的信用を著しく損なう結果を招き、本協会の名誉を傷つけた藤村新一会員の行為は到底容認できないものとして、会則に照らし、退会させることを決定しました。
 前期旧石器問題、いわゆる「原人遺跡」問題は、「新発見」の連続によって認知され、定説化されたように受け止められていますが、学界にはなお異論も多く、論争の渦中にあるというべきです。しかし一方、本協会が、わが国及び東アジアの人類史を考える上できわめて重大なこの問題に関して、必ずしも積極的に取り組んで学術的な検討を進めてきたとは言い難いとの指摘は、謙虚に受け止め、反省しなければなりません。これまで、本協会は、その時々の重要な課題について、学会をあげて集中的な調査を行い、例えば、弥生式土器文化総合研究特別委員会、洞穴遺跡調査特別委員会による弥生文化や縄文草創期文化の積極的解明などを、実施してきた歴史があります。本協会は、今回の事件によって疑念の生じた遺跡の検証を含めて前・中期旧石器遺跡の自由闊達な学術的検討が集中的に行われることの必要を認め、特別委員会(前・中期旧石器問題調査検討特別委員会)を組織してこれにあたりたいと考えます。
 なお、「東北旧石器文化研究所」に対しては、今回の事件に関する真摯な総括と真相を明らかにするための資料の公表を求めるとともに、未報告の過去の発掘調査結果について、早急に学術報告書を刊行するよう求めます。


2000.11.12 日本考古学協会委員会