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県南沿岸部で初の後期旧石器
―4世紀の住居跡からは布留式土器も―

名取市愛島野田山遺跡
―名取市教育委員会(報道発表7月21日/一般説明会7月23日)―

 県立がんセンターの緩和ケア病棟建設に伴って5月から行われていた発掘調査で、県南沿岸部では初めて後期旧石器時代(12,000〜3万年前)の石器が層位的に発見された。また、古墳時代前期(4世紀)の竪穴住居跡7軒も見つかり、住居内から多数の土師器が出土したほか、縄紋時代早期末〜前期初頭と弥生時代中期末頃の遺物も見つかった。
 後期旧石器時代のものとみられる石器が出土したのは、AT(姶良丹沢火山灰)と呼ばれる広域火山灰の数p上の地層。ATは鹿児島県で噴出した火山灰で、C14(放射性炭素)年代測定法で22,000〜25,000年前という測定結果が得られている。
 出土した石器はナイフ形石器など約40点。数mの範囲に集中して平面的に出土した。いずれも東北地方で後期旧石器時代に発達した石刃(せきじん)技法によるものだった。名取市教育委員会では先端部の尖らないナイフ形石器の特徴などから、石刃技法が発達した時期の中でも新しい段階の約18,000年前〜2万年前頃のものとみている。使用している石材は主に山形産の良質な頁岩で、地元産の流紋岩が数点含まれていた。
 県南沿岸部ではこれまで、隣接する西野田遺跡から後期旧石器時代の石器が表面採集されていたが、発掘調査で層位的にその存在が確認されたのはこれがはじめて。今回の石器出土層より下位には約3万年前に蔵王火山から噴出したZK(川崎スコリア)、約7〜8万年前に川崎の安達火山から噴出したAM(愛島パミス)が確認され、仙台市西部の山田上ノ台、北前、青葉山遺跡B地点などの旧石器時代遺跡とほぼ同様の堆積状況が明らかになった。
 古墳時代前期の竪穴住居跡は7軒が確認され、全体が確認できたのは約7m四方と約5m四方の2軒。このうち5m四方の住居跡は、掘り窪めた壁際に土留めの板を立て並べていたことが分かった。中央付近には炉の跡である焼け面がみられ、北東隅には直径50cmほどの貯蔵穴が設けられていた。また、住居出入り口の階段状の構築物や、板壁状の区画施設の存在をうかがわせる遺構も確認された。
 住居跡からは、4世紀の宮城・福島県地域で作られた塩釜式の土師器が多数見つかったほか、布留式と呼ばれる土師器が県内でははじめて出土した。布留式は4世紀頃に近畿地方で普及した土師器の製法で、内面を削って薄くした丸底の甕が出土した。地元産の粘土を使用して焼かれており、技術を携えた人の交流があったことを窺わせている。

後期旧石器時代の石器が出土した地層と
火山灰の様子(上)と出土した石器(右)。


古墳時代前期の竪穴住居跡。中央に焼け面、それを囲むように4本の柱穴があり、周囲には板材を立て並べた溝がめぐっている。右奥の角に貯蔵穴があり、その手前には出入り口に関連するとみられる施設がある。中央奥に出土しているのが塩釜式の土師器で、左端に出土しているのが布留式の土師器。

 
古墳時代前期の住居跡から出土した土師器(左)と、縄紋時代前期初頭の土器(右)

参考文献
名取市教育委員会2000「平成12年度野田山遺跡現地説明会資料」
仙台市史編纂委員会1995「仙台市史特別編2 考古資料」